バイクに跨り5㎞程離れた
ゲストハウスに戻ると。
運よく宿主の小杉さんの姿があった。
体調が悪いことを話すと
部屋で休んでいいよと親切に言ってくれた。
言葉に甘えて少し横になってみるが
やはり体調は良くならない
それより一刻早く病院へ行って
心臓を診てもらった方がいいのかもしれない。
「あの…もしかしたら心臓かもしれないので
診察できる病院知りませんか!?」
小杉さんは驚きながらも
すぐに住所を調べ
さらにありがたいことに
車で病院まで送ってくれた。
20分ほどで病院に到着。
すぐに血液検査が行われ
”心筋梗塞”の疑い
があることが分かった。
心筋梗塞って…
あの心筋梗塞??
もしかして
けっこう危ないってこと?
でも普通、こういうときは
意識を失って倒れたりするんじゃないの?
でも僕は普通に歩けるし
話もできる。
それなのに心筋梗塞?
この病院で手術はできないため
手術ができる半田市まで
救急搬送するという。
えっ、救急車?
生まれて初めて乗る救急車
不謹慎だが
ちょっとワクワクする
自分がいた。
ストレッチャーに載せられ
救急車の中へ。
こんな感じなのか…と車内を眺めた。
「ピーポーピーポー」
聞き慣れた
サイレンの音がすぐ近くに聞こえる。
自分の事なのに
どこか
他人事のような感覚。
人生最大の危機に面している
可能性があるというのに
何だがとても落ち着いていた。
病院で詳しく検査すると
やはり心筋梗塞だった。
いますぐにカテーテル手術をするため
同意書にサイン。
医師に促され
ヒロコに電話を入れる。
「あのさー、オレ心筋梗塞になったから
これから○○病院で手術をするらしくて
申し訳ないけど1週間分の着替えを
○○病院まで持ってきてくれる?」
「誰が、心筋梗塞なの?」
「本当に?」
「うん分かった。すぐ行く!」
僕以上に
ヒロコにとって
青天の霹靂だった。
カテーテル手術は部分麻酔なので
意識のあるまま
医者の話を聞きながら行われた。
順調に進み
あっという間に終わった。
生まれて初めての
手術なのに
ほとんど実感がなかった。
術後、6日間の入院。
順調に回復。
無事退院となった。
半年後。
地元の病院で再検査をしたが
特に問題なし。
運よく心臓にダメージは
ほとんど残っていないという。
いまも薬は飲んでいるが
それ以外は手術前と変わらない生活。
ただ塩分の多い食事は
避けるようにしている。
もしもこの心筋梗塞が
病院のない離島や
アフリカ旅行中に起きていたら…
高い確率で死んでいただろう。
あの日から5年が過ぎた
いま
この命を使って
再び旅をしようと思っている。
いま、僕は生きている!
そんな体の奥からエネルギーが
沸き上がるような旅を